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いちしょうにんとして

一商人として

相馬 愛蔵

――所信と体験――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,895 字 · 222 页

青空文庫

前に、内村先生が中村屋の日曜休業を勧められたところでも述べたが、あれほどの先生ですらこの宗教の前にはやはりこの丸呑みをあえてして、選択の自由を失っているかの観があったのである。日本人としては根本的に首肯し難い、そして単に一つの風習にすぎないようなものでも、宗教の一要素である如く考えるところから、基督教に殉ずるためには信者はじつに世間を狭く、郷党や知友との反目も余儀なくさせられたものがあったのである。

井口氏を初めとして、この塾に学んだ生徒およびこれに接近した人々も、宗教に対する勇猛心よりとはいえ、しらずしらずこの弊に陥り、世間から疎外され、いよいよ塾の存立を困難にさせられたのはじつに悲しむべく、いたましい次第であった。塾の卒業生前後およそ四百人、その大多数に対して、自分はじつに気の毒なことをしたと思う。自分は早く故郷を去り、基督教のこれらの慣習に対してさほど執着するには至らなかったが、井口君が病んで倒れるまでその信ずる所を変えなかった。今や報わるるところ少なく、戦い疲れて病いに臥すこの老友に対し、私は特に責任の大なるを感ずるのである。

人のために善しと信じてしたことが、後になって意外の結果を来たす例は、私と井口君のことぱかりでなく、じつに世間に多いのである。