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いちしょうにんとして

一商人として

相馬 愛蔵

――所信と体験――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,895 字 · 222 页

青空文庫

と悲鳴をあげたことであった。それ以来他の門番衆も私にだけは決して註文しなかった。彼らは、新しく出入りする商人に対してはきまって何かしら註文し、代を支払った例がない。彼らはこれを役得としているのであった。つい弱気な商人たちはそれと知りつつも煩さいので求められるままに持参し、十人ほどの者から三、四円ずつの損害を蒙らぬものはなかったそうである。もちろん私はそういうことは後で聞いて知ったのだが、どこに行っても万事この通り、私は決して彼らの不正には屈しなかった。

その私の曳いて行く箱車には、もと陸軍御用の文字が入っていた。それは先の中村萬一さんが陸軍に食パンを納めていたからで、御用という字が一種の誇りにもなったのであろう。私は譲り受けるとすぐこの御用の字を塗りつぶしてしまった。私は御用商人が嫌いであった。明治維新以来、政府と御用商人との切っても切れない因縁は、いまさらここに事新しくいうまでもない。今日天下の富豪となり授爵等の恩命に浴した人々も、その源に遡れば多くはこの御用商人として政府の御用を達し、同時に特別の恩寵に浴して今日の大を成したものが多いのである。