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いちしょうにんとして

一商人として

相馬 愛蔵

――所信と体験――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,895 字 · 222 页

青空文庫

運動会の一日の売上げが平日の幾倍に当り、どれほどの儲けがあるか知らぬが、そのために一日店を閉め切り、当てにしてわざわざ出向いて来て下さる常得意のお客に無駄足をさせる。こんな仕方をすれば多年どれほど売り込んだ老舗であっても、得意の同情を失って破滅に至るは当然である。

この粟餅屋のような極端な例は別としても、大量の臨時註文というものを持って来られるとなかなか思い切れないものらしく、無理をして引き受けて失敗した例は世間にいくらもある。

私の方でも店が繁昌し、製品が少し評判になって来ると、学校その他から四時折々の催しにつけて売店の勧誘を受けるようなり、中には前々からの関係で断りにくい場合もあったが、私は店にそれだけの余力がないことを話してお断りし、その他の臨時の註文も店の製造能力から考えて、無理と思われるものは辞退し、いつも地道に店頭のお得意第一と心がけて来た。店も多い中に特に自分のところへ御註文下さるとあっては、たとえ無理をしてもお受けせねばならぬと思うのが人情であり、またせいぜい勉強して先様のお間に合わすということも平常の同情に報ずる道であって、それを思えばつい店員を励まして非常時的努力を試みたくもなるのである。