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いちしょうにんとして
一商人として
相馬 愛蔵
――所信と体験――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,895 字 · 222 页
ある。
すると渡辺氏はすでにこの土地に一万三千円貸し付けて居り、中村屋の土地とそれとを併せて五百五十坪の一画にすることをかねてより楽しみにしていたということで、この土地はぜひこちらに譲ってもらいたいと言う。そこで私も氏の懇望にまかせ、交渉をよして見ていた。
ところが渡辺氏はこの土地の価格を二万五、六千円と踏んでそれより出そうとしなかったので、交渉成立せず、とうとう高野果物店の手に入ってしまった。高野氏はこの時停車場の拡張で立退きを命ぜられて行き場に困っていた折柄なので、一方の交渉が破れるやただちに言い値の三万五千円で買い取ったのであった。こんなわけでいったん私の門前まで来たこの幸運は高野氏へまわったのである。しかし私にはぜひこれがなくてはならぬというのではなかったから、必要に迫られた高野氏の方へまわったのが自然で、大いに結構であったと思う。この時大正七年であったが、それから二十年経った今日では、三万五千円が三十倍以上の価格に上がり、驚くべき莫大なものとなった。
この直後の大正八年、現在の三越支店の所に郵便局があったが、これが移転することになって、その跡百六十坪の権利が売りに出た。