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いちしょうにんとして

一商人として

相馬 愛蔵

――所信と体験――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,895 字 · 222 页

青空文庫

それは前にも言ったように、中村屋は高値を見込んでの思惑買いというものをいっさいしていなかったから、すぐに安くなった材料を使えたこと、材料は下がってもいったん価格の上がった菓子はすぐ下がるというものでなく、なお相場の落着きを見るまで当分そのままに置かれていたから、これまでの赤字に引きかえ、普通以上の利益となったこと、もう一つはいかに原料高で赤字となって苦しい時も、平和回復の時を信じて原料を落さず、いつも最良の品を用いて来たことにより、お得意がいよいよ増加し、売上げが多くなって確実に繁昌の度を加えたこと等々、およそ世の投機的商才とは全然相反する誠実と辛抱の結果として、きわめて自然に持ち来たらされたものであった。同業者中にはここまで辛抱が出来ず、原料高に堪えかねて材料を落し、あるいは分量を減じて赤字から免れることに腐心するうち、次第に得意の信用を失い、ようやく平和となって利益の見られる時分には売れ高著しく減じて、とうとう破産したものも少なくない。

私は店員諸子に言っておく。欧州大戦で私が経験したほどのことはなくても、物価が急に騰貴し、原料高で赤字に苦しむことは今後もあるであろう。