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いちしょうにんとして

一商人として

相馬 愛蔵

――所信と体験――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,895 字 · 222 页

青空文庫

しかしこの不合理も近年は大いに改まり、会社組織と個人店の間に著しき相違を見ざるに至った。

さて株式会社中村屋は資本金十五万円とし、全株の半分を妻良の名義にし、残りの半分をば私と婿のボース、伜や娘、功労ある店員十名の間に分配した。

中村屋が全株の半分を主婦の所有としたについては、一通りその理由を説明せねばなるまい。私はこの会社組織に改まると同時に社長となったが、本郷中村屋の初めからここに至る二十年の長年月、中村屋の名義人は私ではなくて相馬良であり、同時に彼女が事実上の責任者であった。創業当時私は郷里に蚕種製造の仕事を残して来ており、これがために毎年三ヶ月は郷里に帰り、パン屋として最も忙しい夏期をいつも留守にしていたのであった。また日本蚕業会社の重役としておよそ十年間はこれに関与していたから、中村屋のために専心働いたのは後の五年だけであった。それゆえ中村屋の基礎を築いた創業以来の十五ヶ年は、店は全く妻の双肩にあった訳で、中村屋の今日を成したものは大部分彼女の力である。元来小売商売は男子よりもむしろ主婦の活躍舞台であって、同業者の中でも本郷三丁目の岡野さん、本所の寿徳庵さん、銀座の木村屋さんなど、揃いも揃って主婦の働きによって今日の大を成したものである。