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ごじゅうのとう
五重塔
幸田 露伴
「国会新聞」1891(明治24)年11月~1892(明治25)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 57,316 字 · 111 页
間なく、うるさい、喧しいと打ち消され、奥の方に入られてしもうて茫然と土間に突っ立ったまま掌の裏の螢に脱去られしごとき思いをなしけるが、是非なく声をあげてまた案内を乞うに、口ある人のありやなしや薄寒き大寺の岑閑と、反響のみはわが耳に堕ち来れど咳声一つ聞えず、玄関にまわりてまた頼むといえば、先刻見たる憎げな怜悧小僧のちょっと顔出して、庫裡へ行けと教えたるに、と独語きて早くも障子ぴしゃり。
また庫裡に廻りまた玄関に行き、また玄関に行き庫裡に廻り、ついには遠慮を忘れて本堂にまで響く大声をあげ、頼む頼むお頼申すと叫べば、其声より大き声を発して馬鹿めと罵りながら為右衛門ずかずかと立ち出で、僮僕どもこの狂漢を門外に引き出せ、騒々しきを嫌いたまう上人様に知れなば、我らがこやつのために叱らるべしとの下知、心得ましたと先刻より僕人部屋に転がりいし寺僕ら立ちかかり引き出さんとする、土間に坐り込んで出されじとする十兵衛。それ手を取れ足を持ち上げよと多勢口々に罵り騒ぐところへ、後園の花二枝三枝剪んで床の眺めにせんと、境内あちこち逍遙されし朗円上人、木蘭色の無垢を着て左の手に女郎花桔梗、右の手に朱塗の把りの鋏持たせられしまま、図らずここに来かかりたまいぬ。