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ごじゅうのとう

五重塔

幸田 露伴

「国会新聞」1891(明治24)年11月~1892(明治25)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 57,316 字 · 111 页

青空文庫

飯の味が今さら異れるではなけれど、箸持つ手さえ躊躇いがちにて舌が美味うは受けとらぬに、平常は六碗七碗を快う喫いしもわずかに一碗二碗で終え、茶ばかりかえって多く飲むも、心に不悦のある人の免れがたき慣例なり。

主人が浮かねば女房も、何の罪なきやんちゃざかりの猪之まで自然と浮き立たず、淋しき貧家のいとど淋しく、希望もなければ快楽も一点あらで日を暮らし、暖か味のない夢に物寂びた夜を明かしけるが、お浪暁天の鐘に眼覚めて猪之と一所に寝たる床よりそっと出づるも、朝風の寒いに火のないうちから起すまじ、も少し睡させておこうとの慈しき親の心なるに、何もかも知らいでたわいなく寝ていし平生とは違い、どうせしことやらたちまち飛び起き、襦袢一つで夜具の上跳ね廻り跳ね廻り、厭じゃい厭じゃい、父様を打っちゃ厭じゃい、と蕨のような手を眼にあてて何かは知らず泣き出せば、ええこれ猪之はどうしたものぞ、とびっくりしながら抱き止むるに抱かれながらもなお泣き止まず。誰も父様を打ちはしませぬ、夢でも見たか、それそこに父様はまだ寝て居らるる、と顔を押し向け知らすれば不思議そうに覗き込んで、ようやく安心しはしてもまだ疑惑の晴れぬ