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ぼうれいホテル
亡霊ホテル
山本 周五郎
「新少年」1937(昭和12)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,706 字 · 20 页
「くそっ」
と一声、弾丸のように走って、いま正に石の階段を半まで駈下りた給仕の背中へ、だっとばかり跳躍した。思切った奇襲である。もんどり打って二人は、重り合ったまま地下室へ転げ落ちる。
「――衆生!」(支那語で「畜生」という意味)
給仕は獣のように喚くと、いきなり右手に短剣を抜いてはね起きた。刹那伊藤青年は下から、だっと蹴上げて置いて、素早く寄身になると、力任せに右手の拳で相手の顎を突上げた。
「あ!」
とよろめくところをもう一撃。
「この豚野郎ッ」
とばかり、鼻柱をへし折れよと叩きつけた。妹を苦しめた仇と思う憤怒の拳だ。給仕は鼻から血を迸らせながら仰反って倒れた。
「みごとみごと、――もう堪忍してやり給え」
博士が階段口から愉快そうに叫んだ。
「それ以上やると死んで了うだろう。あとは警視庁の諸君に任せるが宜い、それより早くみどりさんを助けるんだ」
伊藤青年は倒れている給仕(それは実は支那人であった)の脾腹をひとつ、がんと蹴っておいて、物置部屋の方へ駈けだした。
それから一時間の後――。
伊藤兄妹は博士の部屋で、熱い珈琲を啜りながら、事件の謎を解く博士の言葉を聞いていた。