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いだいなるゆめ
偉大なる夢
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页
そうだ。いかにも君たちのいう通りあの芝居はいけない。本当のわれわれの敵はあんなけちな道化ものではないからだ。
日本のマツオカがヒトラーを訪ねた時、ヒトラーは日本の国体がうらやましいといったそうだが、あれは外交辞令ではない。このわたし自身も同じように感じている。敵国日本の国体が戦争にはもっとも強い国体であることを認めないわけにはゆかぬ。わたしはいつかチャーチルとこのことについて話し合ったが、あの敗けず嫌いのチャーチルすらも、日本の強味はそこにある。それが怖いのだといっていた。それが怖い。オブライエン君、それが怖いのだ。君はわかるかね、それが怖いのだ」
大統領は悪夢にうなされているかのごとく見えた。額の大きな皺の間に、そこの生毛の先に、ビッショリ汗の玉が浮かんでいた。
覆いをかけた薄暗い電燈の光、黒いカーテンをかけつらねた窓々、陰影のおおい広い冷たい部屋、外界の物音はまったく遮断せられ、シーンと静まりかえった大気、その暗く広い部屋のまん中、安楽椅子にうずまった大統領の頭上には、何かしら鬼気のごときものがただよっていた。東洋の神秘の国、そこの神々の怒りが、呪いの煙となって大統領をおおい包んでいるかに感じられた。