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いだいなるゆめ
偉大なる夢
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页
イヤ、戻らなかった。僕は失われて行く意識の隅で、非常に不思議な感じがしていたのです。
奴はそこを突破することは出来なかった。又戻りもしなかった。つまり奴はそこで消えてしまったのです。おかしい。人間が気体となって蒸発した筈はない」
新一は独言のように語尾を弱めて、しきりに考えはじめた。難解な謎を解こうとする人のように、目を空ろにして、心の中を見つめるように、呻吟していたが、暫くすると、彼の両眼が火花のように輝いた。
「アッ、そうかも知れんぞ。京子さん、急いで技師長さんを呼んでくれませんか。僕は妙なことを思いついたのです。それを確めて見たいのです」
京子は不安らしく新一の顔を眺め、その目を望月少佐に移して、少佐の意嚮を確めようとした。新一の突飛な言動を、発熱による譫言ではないかと疑ったのである。少佐は幽かに肯いて、新一の言うままにする方がよいという意味を示したので、京子は直ちに病室を出て行った。
「感心な娘さんですね」
望月少佐が京子の後姿を見送って、意味ありげな微笑を浮べた。
「そうです。感心というだけでは足りません」
新一はこういう機会を待ち兼ねていたかのように、一種異様の情熱をこめて云うのであった。