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いだいなるゆめ

偉大なる夢

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页

青空文庫

午前二時三十分、悲痛なるサイレンの断続音が鳴り渡り、空襲警報を伝えた。同時に帝都から一切の燈火が消え失せた。方十里の大市街に線香ほどの火光も残ってはいなかった。日頃の訓練が見事にその成果を示したのである。

軍官民のあらゆる防空監視員は耳と目ばかりになって空を見つめていた。息づまる三十分が経過した頃、都民は都心より南方の空に照空燈の一斉放射を見、高射砲の轟きを耳にした。警防団の防空監視所からは、一点七点斑打の「敵機来襲」の半鐘がけたたましく鳴り響いた。

闇の空を掻き廻す巨大な白銀の延棒、幾十条の照空燈の光芒は、やがて上空の一点に集中し、敵機の姿を白熱の焦点にとらえた。四発の大型爆撃機である。名にし負う「超空の要塞」。その白熱の焦点より闇の大空を覆いつくし、八方に拡がる何千尺の白銀の光芒、下界の大市街には一点の火光も絶え果てた方十里の大空に、時ならぬ人工の大後光が、銀色の蜘蛛手の極光が、壮麗の限りを尽して輝き渡ったのである。

しかしながら都民はこの空の壮観に見とれているわけには行かなかった。工場、事業場、家庭の待避壕は全都民を収容しつくし、人々は鉄兜の下に目と耳を圧えながら、落下弾との戦闘のために、そこを飛び出す時期を今やおそしと待ち構えていた。