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いだいなるゆめ

偉大なる夢

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页

青空文庫

二人は西洋館の横手を裏門の方へ走った。新一は地面に鋭い目を注ぎながら走っていたが、炊事場の横手に来ると、ハッとしたように立止った。

「アッ、これだ。靴下の足跡です。樋を伝って屋根から降りたんです。そして、ごらんなさい、この足跡はあの塀のところまでつづいている。塀を乗り越えて逃げたんです」

二人は、その煉瓦塀の側に行って調べて見たが、新一の判断は間違っていなかった。低い煉瓦塀に、泥足の辷った跡が歴然として残っている。すぐ向うに裏門があるが、そこには人目のあることをおそれたのであろう。

「あなたはこいつを追って下さい。恐らく温泉村の方へ逃げたに違いありません。僕はみんなにこのことを伝え、設計室を調べて見ます」

「承知しました。では後のことは頼みますよ」

専門家の二人には、くどい問答は不要であった。憲兵の逞しい姿は忽ち飛鳥の如く裏門に走り、外の小径へと消えて行った。それは丁度設計班の人々の夕飯時であった。毎日四時半には一度仕事を中止して、入浴の後食卓につき、一休みしてから又夜の仕事に取りかかるのが日課になっていた。曲者はその食事時を狙って、空っぽの設計室を襲ったのかも知れない。