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いだいなるゆめ
偉大なる夢
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页
「お父さんは絶命せられたのではない。幽かに脈がある」
「えッ、脈が……」
新一は愕然として、息遣いも荒く、そこに跪くと父博士の手首を掴んだ。掴んだままいつまでも空間を見つめて、身動きさえしなかった。
「感じるだろう、幽かに」
「ウン、ある、ある。……医者を、早く医者を」
新一は顎をワナワナと震わせて叫んだ。
「誰かいませんか」
南博士の呶鳴る声に応じて、廊下から一人の憲兵が入って来た。二階の部屋部屋の捜索を担当していた山下伍長である。
南博士が事の次第を告げると、今丁度他の憲兵が上田市の警察署へ電話を掛けている所だというので、警察署に頼んで同市から然るべき医師を急行させて貰うこととし、山下伍長は同僚にこれを伝えるために階下へ降りて行った。
あとに残った二人は、寝台から枕と毛布を取り、老博士に毛布を着せかけ、頭の下にソッと枕をあてがった。瀕死の重傷者を寝台の上に運ぶわけには行かなかったからである。そうして、負傷者の両側に踞んだまま、顔見合せて黙り込んでいたが、やがて、新一はふと気づいたように口を開いた。
「母はどこへ行ったのでしょう」
「え、お母さんが」
「さっきから一度も見かけないのですよ。