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いだいなるゆめ
偉大なる夢
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页
それ以上言葉をつづける気力がなかったのであろう。グッタリとなって、しばらくすると軽い鼾を立てはじめた。
「熱が出ている。母はちょっとしたことにもよく熱を出すのです。当分は起きられないかも知れません」
新一は夫人の額から手を引きながら、声を殺して云った。
「折鞄といえば、今度はどこに隠しておいたのです。盗まれたことは確かですか」
南博士は新一の気を変えるためのように、突然別のことを訊ねた。
「どこだと思います」
新一はこんな際にも拘らず、何か人を焦らすような云い方をして、幽かに微笑をさえ浮べた。
「どこです」
南博士はそれに取り合おうともせず、怒ったように訊ね返す。
「設計室の金庫の中です」
「エッ、金庫の中だって。……アア、君は何という大胆なことを」
博士はあっけにとられたように、思わず声を高くした。
「大胆ではありません。相手が金庫はいつも空っぽだと信じ切ってしまった現在では、そこが一番安全な隠し場所だったのです。考え抜いて極めたのです。しかし、敵は一枚上手でした。僕のこの考え方をちゃんと見抜いてしまったのです」
憲兵はさいぜんから、寝台の方に立って二人の会話を聞いていたが、折鞄の最後の隠し場所が金庫の中であったと聞いた時には、少し顔色を動かした。