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いだいなるゆめ

偉大なる夢

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页

青空文庫

「あいつが間諜であろうとは、全く気がつきませんでした。しかし、考えて見れば、如何にもそういう犯罪にはうってつけの男です。あいつは手品使いですからね」

と、不明を恥じるように云った。

「手品使いといいますと」

「奇術師ですね。実に手品がうまいのです。留置中に、私達の前でやって見せたことがあるのですよ。小手先の手品でしたが、実に玄人はだしのうまさです。あいつなら、どんな大仕掛けの手品だってやり兼ねませんよ。あなたは今隠れ簑とおっしゃいましたね。そういう手品だって、あいつならやれるかも知れません」

刑事は真面目な顔でそんなことを云った。

「支那語がうまいのだそうですね」

「エエ、それは手に入ったものです」

「日本人であることは確かなのですか」

「原籍は調べたのです。架空の人物ではありません。しかし、十何年も支那にいたので、あの男の顔を見知った友人というようなものが一人もないのです。原籍地は籍があるというだけで親戚も何もありません。しかし、顔立が日本人ですし、言葉にも変な所はないので、取調べの当時は、別に疑っても見ませんでしたが、若し今度の犯人があいつだとすると、何とも云えませんね。