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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

「……世間はもう偉人伝に食傷して、凡人伝を要求している。ナポレオン伝が何百冊と出ていて、それを読むものが何千万人とあったけれど、果して第二のナポレオンが現れたか? 一人でも現れたか? 否。これをもってこれを見るに、偉人の成功を学ばしむるの偉人伝はホーカスポーカスなり。(註、hocuspocus は手品師の呪文にして元来偽拉丁語、人目を眩ますものゝ称)寧ろ凡人の失敗に鑑みしむるの凡人伝をもって大衆を導くに若かず。世界は多数のナポレオンを要しない。見よ。欧羅巴は一つしかないではないか? 云々」

私は目が覚めたような気がした。この一節を天から直接私へ来た使命のように思った。失敗が後進の参考になるなら、私には英文和訳よりももっと材料がある。第一、飯の食えない学校へ入ったのからして失敗だ。学園時代から今日までを有りのまゝに書けば事が足りる。尚お都合の好いことに同窓が押し並べて凡人だ。成金の赤羽君にしても、欧州戦争という間違が因で成功したのである。自分はもう仕方がない。食えない学校を卒業して、兎にも角にも餒い思いはしないのだから宜い。万事諦めている。しかし、せめてものことに、後世を益したい。