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ぼんじんでん
凡人伝
佐々木 邦
「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页
それが必ず大勝利の報告だったから景気が好い。或日、私は赤羽君と二人づれで神田へ書物を買いに行った。折から、
「号外々々! 大勝利の号外!」
と鈴を鳴らしながら駈けて来るもの数名あった。何うした弾みか、その一人が赤羽君に突き当って、
「気をつけろ!」
と怒鳴った。向う鉢巻で気が立っている。
「何だ?」
と赤羽君は早速身構えをした。しかし号外屋は喧嘩を売る積りでなかった証拠に、
「大勝利!」
と言って、一枚突きつけた。
「有難う」
と赤羽君は例によって人柄が好い。
「長谷川さん」
と私は号外屋さんに追い縋った。
「やあ、河原君」
と号外屋は立ち止まって鈴を掴んだ。
「珍らしいですな」
「見つかるとは思わなかった」
「僕、探していたんです」
「おい、バルチック艦隊全滅だ」
と赤羽君は号外を私の目の前へ持って来た。私は郷里の中学校で別れた旧友に繞り会ったのだ。そんなことにも日本海海戦という大きな背景がある。
「赤羽君、これは長谷川さんだよ。そら、いつか話した」
「唯今は失敬しました」
と長谷川君は少し極りが悪いようだった。
「いや、僕こそ」
「同級の赤羽君です」
「群馬県の産、赤羽明と申します。