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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

「…………」

「あの頃の主張は全部取消す。君は僕よりも五つ六つ若いけれど、先覚者だったよ」

「ハッハヽヽヽ」

と赤羽君が笑い出した。

「何ですか?」

と長谷川君は不思議そうに向き直った。

「大変な先覚者です。此奴はもう神さまが見えなくなったんです」

「よせよ」

と私は困った。

「去年の今頃です。一緒に散歩に行った時、汽車に轢かれた女を見たんです。それで無神論者になったんです」

「無神論者ってことはないよ。不可識論者さ」

「何方だって同じことだよ」

「違うさ」

「同じさ。教会へ出ないもの」

と赤羽君は大ザッパだ。

「君、牛乳をもう一杯飲まないか?」

「もう沢山だよ。悪事露顕を恐れて、僕の口を塞ぐ積りかい?」

「参ったね。ハッハヽヽヽ」

と私は頭を掻いた。赤羽君はこの通り、愚鈍のような聡明のような男だ。

「信仰が一時動揺したんでしょう。それは有り勝ちのことです」

と長谷川君は私の為めに弁解してくれた。

「反動ですよ」

「何の?」

「郷里にいた頃は周囲が皆未信者で基督教のことを悪く言うでしょう。よし、それならやってやるという気で信者になったんです。ところが明治学園へ来ると、周囲が大抵信者でしょう。