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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

素々歩いて帰る積りのところを勧められたんですから」

「然うですか。しかし……」

「何うぞ」

「恐縮ですな。それではお言葉に甘えます」

と私はお礼を述べて乗って来た。

学校では書記が私の下宿を定めて置いてくれた。そこに落ちついて翌朝改めて又登校した。先ず校長に会って、教員一同へ紹介されたが、その中に昨日の老人がいたのである。

「御同姓河原と申す老朽でございます」

「何うぞ宜しく、先生には昨日……」

「ハッハヽヽ。流石にお若い方は御記憶が宜しい」

と老人は満足のようだった。同姓には驚いた。尚お会計に川原というのがいた。字は違っても音が同じだから、三人鉢合せをして紛らわしい。自然、若河原、老河原、会計川原ということになった。

私の下宿は素人屋だった。母親一人、息子一人の家庭で、息子は市役所へ出ていた。それに嫁を貰うまで私を置いてくれる。

「当分大丈夫でしょうね?」

と念を押したが、

「縁のことですから、堅いお約束は申上げられません」

とあって、心細い下宿人だった。いつ追い出されるかも分らない。甚だ感心しなかったけれど、正直なところが気に入った。士族だそうで、品の好い婆さんだった。