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ぼんじんでん
凡人伝
佐々木 邦
「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页
と野崎君は鼻息が荒かった。
このコルク草履は家へ帰ってからも一寸問題になった。
「友一や、お前こんなものを何処へ持って行くの?」
と母親が見つけて怪んだ。
「同僚に矢張り河原って老人があるんです。その人の家で始終お世話になりますから、お礼の印にと思いまして」
「でもこれは年寄の穿く草履じゃありませんよ」
「娘さんがあるんです」
と私は尚お尋ねられるまゝに河原さんの家庭を説明した。
「その娘さんは幾つ?」
「十九です」
「妹があると言いましたね?」
「えゝ」
「その方は幾つ?」
「十六か七でしょう」
「それじゃ片一方丈けへ上げると、恨みっこになっていけませんよ」
「成程、然うでしたね」
「もう一足広小路から買って行ったら宜いでしょう」
と母親は注意してくれた。村から半里の○○町に母親の妹が下駄屋を営んでいる。
「こんなのがありますか?」
「ありますとも」
「もう一遍東京へ出ますから、その時買って来ても宜いです」
と私は公平を期した。しかし姉丈けに持って行く積りで妹の存在を全く忘れたところに、私の心の傾きが現れていた。
母親が話したと見えて、或日、父親が、
「友一や、お前も何れその中世帯を持たなければなるまいね?」