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ぼんじんでん
凡人伝
佐々木 邦
「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页
と老河原さんは俯向いて考え込んだ。
そこへ操さんがお茶を入れ替えに入って来た。
「戦争のお話を承わっています」
と私はお愛想に言った。
「操も来年はもう二十ですから……」
と老河原さんは操さんの顔を見詰めた。
「私は大丈夫よ、お父さん」
と操さんは笑って出て行った。私は何ういう意味か分らなかったが、老河原さんは間もなく戦争後の身の上話に移って、失敗を一々、
「これも会津の娘の祟りです。悪いことは出来ませんよ」
と説明し始めた。
「そんな理窟はないでしょう」
「いや、恐ろしいものです。家庭の上へも悪の酬が明かに現れています」
「何ういう意味ですか?」
「長男が二十で死にました。次男も二十で死にました」
「はゝあ」
「操も来年はもう二十ですから、何うせ死にます」
「河原さん、飛んでもないことを仰有いますな」
「いや、私はその初め煩悶の余り、易者に見て貰いました。その時の判断が以来一々当っています」
「お子さんが成人しないとでも言われたのですか?」
「はあ、会津の娘は恐らく二十でしたろう」
「河原さん、然う迷信的にお考えになっちゃ駄目ですよ。人間は罪を悔い改めれば救われます。況してあなたはもう四十年間後悔していらっしゃるんですから」