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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
引手の廻転が止まると、ドアそのものが、一分ずつ、一分ずつ、極度に用心深く、開き始めた。
黒い一寸法師は、まだ天井裏にいる筈だ。彼ではない。とすると、今、恐ろしい程の用心深さで、ドアを開いている奴は、そもそも何者であろう。
鬼といわれた恒川警部でさえ、湧き起る好奇心と、何ともいえぬ恐怖の為に、呼吸がはずんで来る程であった。
一寸、二寸、一尺、二尺、遂にドアは全く開かれた。外の奴は合鍵を所持していたのだ。
懐中電燈を持つ、明智の動悸を拡大して、壁の円光は、ブルブルとリズミカルに揺れている。
その揺れる光の中へ、外の廊下から、スーッと入って来た、異様の人物。
それを見ると、二人の見物は、予め明智の注意があったにも拘わらず、思わず「アッ」と小さな叫び声を立てないではいられなかった。
その人物は、黒いソフト帽、黒マント、大型の色眼鏡に、マスクをつけた、例の唇のない怪賊と、そっくりそのままの扮装であったからだ。
怪人物は、円光の中を、ジリジリと進んで行く。進むにつれて、明智の懐中電燈も、丁度スポットライトが、舞台の演技を追うように、人物と共に壁をはって行く。