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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

三谷の奴、ガランとした、汚い部屋の中で、古テーブルにもたれて、考え事をしているのが、マザマザと眺められた。

「三谷さん、三谷さん」

明智は窓の外から、声をかけた。

可哀相に、三谷青年は、どんなにかびっくりしたことであろう。彼はハッと顔を上げて、ガラスの外の暗やみを、すかして見たが、おぼろな人影が見えるばかりで、まだ明智とは気がつかぬ。

「どなた。どなたです」

彼はもう逃げ腰になりながら、上ずった声で、聞き返した。

「僕ですよ。明智ですよ。ちょっとここをあけてくれませんか」

それを聞くと、三谷の顔が、サッと血の気を失った。そして、物もいわず、向うのドアへと駆け出した。

「待てッ」

呶鳴りさま、恒川警部は、窓を押し開き、飛鳥の如く室内に飛び込むと、いきなり逃げる三谷に追い迫って、その上衣を引つかんだ。捕物には腕に覚の鬼警部だ。

「アアあなたでしたか。僕は飛んだ思い違いをしていました」

逃れられぬと分ったので、三谷は咄嗟に態度を改めて、見えすいたうそをいいながら、ふてぶてしく笑った。彼も流石に兇賊である。

「思い違い? ハハハハハハ、思い違いでなくとも、逃げ出さなければならなかったのだ。