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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

隠れる様な場所のないことは、さい前からの調査で、充分解っているのだ。

「ここには、検事局と警察以外のものは、誰もいません……」

といいさして、警部はふと異様な考えにうたれた。検事局や警察のものばかりだとはいえぬ。乳母のお波がいる。彼女は犯罪の直前、倭文子に接近したただ一人の人物だ!

恒川氏は、ジロジロお波の方を眺めながら、意味ありげに続けた。

「その外には乳母のお波さんだけです」

「イヤ、まさか犯人が、あなた方の目につく場所にいるとは思いません。隠れているのです。若し僕の想像が間違っていなければ、奴は非常に変てこな、誰も探しても見ない様な所に隠れているのです」

「そんな場所は絶対にありません。僕はあらゆる部分を調べました。まさか僕が、人間一人見落としたとは考えられません」

警部は少々かん癪を起していい放った。

「ところが、あなたも調べなかった部分があるのです」

「どこです。それは一体どこなのです」

「恒川さん、あなた、園田黒虹という小説家を覚えていますか」

明智は突然、妙なことをいい出した。

「知ってます」

「あの男が『椅子になった男』という小説を書いているのを、ごぞんじですか」