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じょうちゅうのしも
城中の霜
山本 周五郎
「現代」1940(昭和15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,828 字 · 26 页
青竜組の暴れ者五人に向って、唯一人抜刀して立ち向った時の、烈しい、断乎とした情熱が秘められているのだ。
左内は翌年、二十四歳で江戸へ去った。その別れに臨んで、彼は香苗に向って、「こんど帰って来たら」という一語を残した。それが彼と会った最後であり、彼の言葉を聞いた最後であった……こんど帰って来たら。左内はなにを云う積りであったろう。そう云ったときの彼のようすはそのあとを云う必要のない光りを帯びていた。
――御無事でお帰りをお待ち申します。香苗はそう答えるだけで満足した。
左内は帰らなかった。時勢はしだいに険悪になり、彼もまた騒然たる世の怒濤のなかへ身を挺していった。香苗はなにも知らなかった、自分の胸のなかに生きている左内の俤を抱いて、しずかに彼の帰る日を待っていた。左内が幕吏の審問を受けたと聞いたときも、遂に捕縛されたと聞いた時も、――あの左内さまが。とまるで縁の遠いことのようにしか考えられなかったし、愈々遠島と決ったと聞いて、兄の勘一郎と共に江戸へ出て来る途中も、却ってそれが、左内を自分の許へ取戻す機会になるような気さえしていた。
香苗は兄と共に三日まえに江戸へ着いた。