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じょうちゅうのしも
城中の霜
山本 周五郎
「現代」1940(昭和15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,828 字 · 26 页
遠島になる彼を見送る積りだったのである。然し左内は急に罪を加えられて、斬罪に処せられた。香苗は初めて動顛し、あの左内がどうしてそんな重罪に問われたのか、また、どんな死にようをしたのか知りたいという烈しい欲望を抑えることができなかった。そして聞き得た結果は、香苗にとってやはり縁遠い左内の姿だった。従容として刑場に辞世の詩を詠み、静かに笑って、帰するが如く死んだという。香苗の胸に生きている俤には、どこを捜してもそんな豪快な彼はいない……まるで違う、まるでちぐはぐなのだ。
「……香苗ではないか」突然そう呼びかけられて、恟としながら立止ると兄の勘一郎が近寄って来た、「いま戻ったのか」
「……はい」香苗は思わず胸を押えた。
「うかうかと歩いていてはいけない、御門を通り過ぎているぞ」
そう云われて気づくと、香苗は藩邸の前をもう二三十歩も通り過ぎているのだった。勘一郎は直ぐ妹の気持を察したらしく、「己もいま戻ったところだ、帰ろう」そう云って先に歩きだした。
彼は、石原甚十郎らと共に左内の死躰を受取りにいったのである。そして遺骸を千住小塚原の回向院へ仮埋葬すると、独りだけ先に帰って来たのであった。