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じょうちゅうのしも

城中の霜

山本 周五郎

「現代」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,828 字 · 26 页

青空文庫

「いやその話なら拙者にさせろ」

「まあ己に話させろ、貴様は話が諄くて埒が明かんから駄目だ、こうなんだ、初めて左内が訪ねていったとき、吉之助は庭で若者たちに相撲をとらせて、こうどっかり坐って見ているところだった」

「吉之助は大肌脱ぎになって」

「黙っていろと云うのに」香苗は茶を運んで来たまま、隅の方にそっと坐って聴いていた。「左内は初対面の挨拶の後、礼を篤くして時勢に対する意見を訊いた、然し吉之助はまるでそらっとぼけた調子で、自分は御覧のとおり若い者共と相撲でも取る他に能のない男だから、そんな難かしい話は分り申さんと云って、遂に一語も交わそうとしなかったそうだ」

「ところがその明くる日」

「黙れと云うのに、ところが左内が帰ってから、はじめてその大人物だということが分ったのだ、吉之助は驚いて、直ぐその明くる日此処へ左内を訪ねて来た」

「おい……石原が帰ったぞ」話を遮って一人が叫んだ。

後始末をするために、回向院に残った石原甚十郎と、他の二人が戻って来たのである、三人を入れるので一同は席をひろげた。

「御苦労だった、すっかり済んだか」

「大体のところ済ませて来た、けれど、……不愉快な話を聞いて来た」