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じょうちゅうのしも

城中の霜

山本 周五郎

「現代」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,828 字 · 26 页

青空文庫

「やはり、やはり長袖者だ」腕を組み、さっきから一言も口を利かなかった金五が、鋭く切込むように云った、「才はあったが、医者の伜だし、つい先頃まで外科手術だの種痘だのと、薬匙を手にとび廻っていた男だ、武士らしい死に方を知らんのは当然かも知れぬよ」

「それはそうかも知れぬが、左内だって志士の端くれなら、自分の死がどんな意味をもつかくらい、分らぬ筈はないだろう」

「そうだ、橋本左内は一私人として斬られるのではない、彼には福井藩士の面目が懸っている、全国の志士の名誉が懸っているんだ」

「然し……然し、事実とは思えんなあ」

「そうでない、彼は蒔田の云うとおり長袖者だからな、武士の誇りは持合わさなかったかも知れんぞ、それにしても、死に臨んで泣くとは未練極まるな、如何になんでも泣くというのは」

「暫く、暫くお待ち下さいまし」

片隅から香苗が静かに呼びかけた。騒然となっていた一座は、その声でぴたっと静まり、一斉に香苗の方へ振返った……彼女の額は蒼白く、その唇は心の忿りをそのまま語るかのように痙攣っていた、……人々はその表情を見て、いずれも虚を衝かれたように膝を正した。

「石原さまのお話は伺いました」