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じょうちゅうのしも
城中の霜
山本 周五郎
「現代」1940(昭和15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,828 字 · 26 页
香苗は声を抑えながら云いだした、「そして皆さまの御非難も伺いました、けれど、左内さまがお泣きになったことが、そんなに未練がましい、恥ずべきことでございましょうか、……左内さまは仰せのとおり医者としてお育ちになりましたけれど、いざという場合に命を惜しむような方ではございませんでした、それは蒔田金五さまがよく御存じの筈だと存じます」
金五は恟として香苗を見たが、直ぐにその意味が分ったらしい、忽ちその眼を伏せ頭を垂れてしまった。
「皆さまは泣いたということをお責めなさいますけれど、笑って死ぬ者なら勇者でございましょうか、話に聞きますと、強盗殺人の罪で斬られる無頼の者も、その多くは笑い、悠々と辞世を口にして刑を受けると申します……それが真の勇者でございましょうか」香苗はつきあげてくる忿怒を懸命に堪えながら、息を継いで云った。
「いまのお話を熟くお聞き下さいまし、左内さまは太刀取りを押止め、静かに御藩邸を拝し、声を忍んで泣かれたのです、刑場に曳かれた以上、泣こうと喚こうとれるすべのないことは三歳の童でも知って居りましょう、多少なり御国のために働くほどの者が、其の場に臨んで、命が惜しくて泣くと思召しますか、……未練で泣くと思召しますか、……強盗無頼の下賤でも笑って死ぬことは出来ます、けれど断頭の刃を押止め、静かに面を掩