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じょうちゅうのしも
城中の霜
山本 周五郎
「現代」1940(昭和15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,828 字 · 26 页
「死罪に改められた点に就いては、御政治向のことでなにも申す自由を持たぬが、最後の有様だけはお伝えしよう」「……はい」「獄中に於ける左内どのは、まことに師表たるべき日常を送られた、後に下げ渡す時期も来ようが、資治通鑑を注し教学工作を論じて一書を作り、また獄制論などを書いておる、孰れも一代の見識として推賞すべき文字であった……若年ながら達人の風格をもたれていたためか、獄吏たちも一様に敬服し、また格別の思召を以て在獄中は充分に礼が尽されていた」
娘は一言も聞き漏らすまいとするように、膝の上に手を揃え、じっと眼を閉じ頭を垂れて聴いていた。
「今朝、死罪の達しのあった時だ」穆清は静かに続けた、「牢役人が呼出しにまいると、左内どのは静かに座を起って戸前口を出られた、戸前口は四尺に三尺しかなく、どのように剛胆者でも死罪と決って是を出る折には、身が竦んで必ずどちらかへ躯を打当てるものだ、然し左内どのはいかにも落着いて、殆んど衣服も触らず、すっとぬけ出られたという……見ていた役人は我知らず、おみごとと申してしまったということだ」
その話は、彼が石出直胤から直接聞いたものである……娘は然し彼が期待していたような感動を表わさなかった。