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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

「『赤と黒』ってどんな小説ですの………?」冴子が聞いた。

「さあ、どんな小説だか、一口には言えないね。一口で言える様な小説は小説じゃないんです。弁解みたいだけれど、『赤と黒』が九百一頁あるとすれば、その九百一頁に渡って書かれてあるような小説だとしか言えないよ。僕等は小説を読むと、すぐその筋だとかテエーマーだとか思想だとかを、要約したがりますね。ひどいのになると、この小説は何主義だろうかと、きめる事を先決問題にする莫迦が居るよ。然し、簡単に要約出来ないという点に小説の面白さがあるんじゃないかな」

冴子は身も蓋もない様な信吉の返辞に、いちいちうなずいていたが、予定の質問は止めなかった。

「読む前と読んだ後とで、人生がすっかり変っちゃう小説だと、昨日おっしゃった様ですけど……」

「無論そうです。いや、人生観が変るだけじゃない。『赤と黒』を借りるという事があなたの人生をすっかり変えてしまうかも知れない」

信吉は、にやりと凄い微笑を浮べた。

「へえ……? 何だか恐い見たい!」

冴子は急にペロリと舌を出して露悪的な口を利いた。

「僕が恐い……?」

「ちっとも……」

「二流恋愛家だよ。