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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

「朝食九時までだろう? 起きられるかな。僕、朝寝坊だから……」

「電話で起しますわ」

伊都子の匂いの残っている寝台で、信吉はぐっすり眠った。そして、眼を覚ますとベルが鳴っていた。受話機を取ると、

「もしもし、先生でいらっしゃいますか」

伊都子の声は電話でのせいか、老けて生真面目な声だった。先生といわれて、信吉は苦笑した。

「――御食事にいらっしゃいません……?」

「ああ、ありがとう」

ロビイへ降りて行くと、伊都子は食堂の入口でしょんぼり立っていた。

向い合って坐ると、信吉は食堂の中を見廻した。そして煙草を喫っている若い男を見つけて、火を借りた。その男はむっとした顔で、信吉をにらみつけながら、火を貸してくれた。信吉の自尊心は傷ついた。マッチがないばかりに、こんな想いをするのか。

もどると、伊都子は、

「今、あなたが火を借りた男、私の許嫁よ」

と、言った。

信吉はあっと驚いた。

「――あの男、伯父さんと一緒に事業しているの。伯父さん、政略的に私をあの男と結婚させたがってるの。私いやだわ、あんな男……」

ところが、伯父はその男に伊都子は既に承諾したと言ったらしい。