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よるのこうず
夜の構図
織田 作之助
「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页
感覚的に迫って来なければ、何にも判らぬ男なのだ。いや、判っていても、判らぬふりをするのである。
女はあわれなものだとは、判っている。が、それをピシャリと感ずるのは女が涙を見せた時なのだ。
悲しいから泣く。しかし、泣けもしない時があるのだ。泣いている時は、女は案外自虐的な快感に身を委ねているのかも知れない。泣いている状態――いわば涙の生理というものを、たのしんでいることもあるのだ。しかし信吉はそこまで考えられない。怪我をした時、血が出たのを見て驚くようにうろたえるのだ。
「どうしたの……? なぜ泣くの……?」
信吉は伊都子の顔を覗きこんで、なだめる姿勢になった。こんな時、信吉はおろおろと、自責の念に足をすくわれて、落ちつかない。が、ふとひそめた眉のあたりに、冷酷な翳が走っているのは、何であろう。女に泣かれている状態から、一秒でも早くのがれたいというエゴイズムなのだ。
「いいえ、何でもないの」
と、伊都子の涙はすぐとまった。そして、
「――会えてうれしかったから、泣いたのよ。あたし、泣虫でしょう……? うふふ……。でも、うれし涙よ」
信吉はほっとした。
しかし、ほっとしたのは、伊都子が早く泣きやんでくれたからであった。