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しっちょうき

失蝶記

山本 周五郎

「別冊文藝春秋」文藝春秋新社、1959(昭和34)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,072 字 · 44 页

青空文庫

てみせる、これはおれの役だ」

杉永は口笛でも吹くように、唇をまるくつぼめ、庭のほうを見たまま考えていました。癖というものは直らないものだな、私はそう思うと、緊張した気分のほぐれるのを感じました。

「考えることはない、もうきまったことだ」と私は云いました、「帰ったらみんなにそう伝えてくれ、但し真壁の動静はおれだけではつかめない、みんなで手分けをして、いい機会があったら知らせてもらおう」

「みんなにも意見はあるだろう」と杉永がいいました、「相談したうえでもういちど来る」

杉永を送って出ながら、私は明神の滝であなたに会ったことを話しました。そのときまで、ふしぎに話す機会がなかったのです。彼はあなたから聞いて知っていたとみえ、頷きながら陰気に微笑しました。それとわかるほど、陰気な微笑だったのです。

「早く祝言をするほうがいいよ」と私は云いました、「もうあの人も二十になるんだろう、なにをぐずぐずしているんだ」

杉永は私の顔を見て、なにか云いたそうにしましたが、思い返したようすで、そのまま帰ってゆきました。

それから三日めの夕方です。母屋のほうの風呂へはいって戻ると、梓久也が訪ねて来ました。