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しっちょうき
失蝶記
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」文藝春秋新社、1959(昭和34)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,072 字 · 44 页
「それはみんなの意見か」
「杉永さんもそう云われました」と梓は続けた、「どうなさいますか、私は見張り役で、これから西山へゆかなければなりません」
私は頷きました、「やろう」
では打合せをしますと云って、梓は別墅付近の図を書きました。ご承知のように、西山は城下のほぼ西南に当り、重職がたの控家や別墅のある閑静なところです。町とのあいだに田畑や林などがひろがってい、道は一と筋、見とおしもよくききます。梓はその道の一点に印をつけて待伏せるところはここがいいと思うと云いました。そこからは隈川別墅の門が見えるので、合図をするにも都合がよく、また邪魔のはいるおそれもないだろう、というのです。
「いいだろう」と私は頷きました、「それで、合図はどういうふうにする」
「私が提灯で知らせます」と梓はいいました、「これから西山へいって、真壁が慥かに来るかどうかを見さだめ、来たら帰るまで見張っています、そして彼が帰るのを慥かめたら、提灯で円を三度かきましょう」
「円を三度だな」
「人の違うときは提灯を見せません、まるく三度振ったら真壁ですから――」そして梓は書き加えました、「できたら私も助勢するつもりです」