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おそろしきつや

恐しき通夜

海野 十三

「新青年」1931(昭和6)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,092 字 · 30 页

青空文庫

「エエそうですわ。でもあれは、もう済んだことじゃありませんの」と紅子は、丸い肩を、ちょっとすぼめるようにして云った。

「よォし、無いと判ってりゃ、よいのだ」大尉はそう云うとクルリと身を飜し、いきなり星宮学士の両腕をグッと掴んだ。「貴様! という貴様は、実に怪しからん奴だ。儂の女房を誘惑して置いて、よくもあんな無礼きわまる口を叩いたな。死ぬのを怖れんという貴様に、殺される苦痛がどんなものか教えてやるんだ!」

実験室の静寂と平和とは、古石垣のようにガラガラと崩れて行った。

「ウフ。今になって気がついたか、可哀想な大尉どの。だが僕が簡単に殺せると思ったら大間違いだよ」

「言うな、色魔!」

「なにを――」と星宮学士は、右のポケットにあるピストルを探りあてた。それを出そうと思って、大尉につかまれた右腕を離そうとして、必死に振りきった。べりべりッという厭やな音がして、学士の洋服が引裂けると、右腕が急に自由になった。

(こうなると、こっちのものだ)

そう思った星宮学士は、ピストルを握った右の拳をグッと前にのばそうとした。そこを、

「エイ、ヤッ」

と大尉が飛びついて、両腕をグッと捻じあげた。