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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
まるで神隠しにでも遭ったように、空気の中へ溶け込んででもしまったように、彼は、その日限り、つまり四月十三日限り、この世界から消失せたのであった。
では川手氏は一体どうなったのか。その夜中彼の身辺にどのような怪異が起ったのであるか。我々は暫らく川手氏の影身に添って、世にも不思議な事の次第を観察しなければならぬ。
その夜更け、川手氏は例によって床の中でふと目を覚ました。何か人声らしいものを聞いたからである。また幻聴が起ったのかと、慄然として耳を澄ますと、つい障子の外の廊下の辺で、シクシクと人の泣いている声がする。さもさも悲しげに、いつまでも泣きつづけている。誰だと声をかけても、答えはなくて、ただ泣くばかりである。
川手氏はまた手燭に火をつけた。そして蒲団から起き上ると、ソッと障子を開いて、廊下の暗を覗いて見た。
すると、今夜は声ばかりではなくて姿があった。両手を目に当てて、啜り泣いている子供の姿がハッキリと眺められた。
まだ四五歳の上品な可愛らしい幼児だ。絹物らしい筒袖の着物と羽織、袖からは、明治時代に流行した、手首のところでボタンをかける白いネルのシャツが覗いている。