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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

男の癖に頭は少女のようなおかっぱだ。どうもこんな山里にいそうな子供ではない。それに風俗が異様に古めかしくて、現代の子供とも思われぬ。

川手氏は夢でも見ているような気持であった。変だぞ。俺はこの通りの子供を知っている。遠い遠い記憶の中に、丁度こんな服装をした子供の姿が焼きついている。誰だろう。ひょっとしたら幼年時代の遊び友達の面影ではないかしら。

何か物懐かしい気持に支配されて、思わず廊下に立出でると、泣いている幼児の傍に近づいて行った。

「オイオイ、泣くんじゃない。いい子だ。いい子だ。お前今時分、一体どこから来たんだね」

おかっぱの頭を撫でてやると、子供は涙の一杯湛った目で川手氏を見上げ、廊下の奥の闇の中を指さした。

「お父ちゃんとお母ちゃんが……」

「エ、お父ちゃんとお母ちゃんが、どうかしたの?」

「あっちで、怖い小父ちゃんに叩かれているの……」

子供はまたシクシクと泣き出しながら、川手氏の手を取って、助けでも求めるように、その方へ引っぱって行こうとする。

川手氏は夢に夢見る心地であった。真夜中、この山中の一つ家に、こんな可愛らしい子供が現われるさえあるに、その父と母とがこの邸の中で何者かに打擲されているなんて、常識を以てしては全く信じ難い事柄であった。