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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

思いもよらぬその木箱に、川手氏自身の姓名が記されていたからである。

「俗名川手庄太郎」「昭和十三年四月十三日歿」

アア、それは川手氏の死体を納める為に用意された棺桶であった。四月十三日歿という月日さえ、あの庭の石碑に刻みつけてあった日附と、ピッタリ一致しているではないか。

アア、そうだったのか。俺はこの棺に納められるのか。そして、庭の石碑の下へ埋められるのか。十三日といえば、明日だな。イヤ、もう十二時をすぎているから、今日という方が正しい。愈々俺はそういう事になるのかな。

川手氏は悪夢を見ているような気持で、まだ本当には驚けなかった。奥底も知れない程の恐怖ではあったが、それが何か紗を通して眺めるようで、まだ身にしみて感じられなかった。

ふと気附くと、今まで側にいた子供の姿が見えぬ。一体どこへ消えてしまったのだ。四方を板で囲まれた部屋の中、どこにも身を隠す場所はないではないか。アア、これも悪夢だな。子供は魔法使の妖術で、煙のように消えてしまったのに違いない。

だが、地底の怪異はそれで終ったのではなかった。茫然と夢見るように佇んでいる川手氏の耳元に、どこからともなく、ボソボソと多勢の人の話声が聞えて来た。