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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
宗像博士は、化学実験台の上に置いてある、小さな錫の小函を指し示して、
「今朝、三十歳位の会社員風の男が僕を訪ねて来て、助手が不在だというと、手帳の紙をちぎって、こんなことを書きつけて、これと一緒に僕に渡してくれといって、逃げるように立去ったというのです。その男はひどく青ざめて、震えていたといいます」
云いながら、博士はポケットからその手帳の紙を取出して、中村警部に渡したが、それには鉛筆の走り書きで、左のように記してあった。
昨夜午後十時頃、ボートを漕いでいて、吾妻橋の下で、この品を拾いました。包んであった新聞紙も紐もそのままお届けします。なぜこの品を先生のところへ持って来たかは、小函の中のものをよくごらん下されば分ります。今出勤を急ぎますので、後刻改めてお邪魔します。
佐藤恒太郎
宗像先生
「フーム、吾妻橋の下で拾ったというのですね。すると、誰かがこの品を隅田川へ投げ捨てたという訳ですか。綺麗な小函じゃありませんか。中に一体何が入っているのです」
「実に驚くべきものが入っているのです。マア開けてごらんなさい」
博士は錫の小函を中村警部の方へ押しやった。
「錫の函を、こんなに沢山の新聞で包んで、その上をこの紐で括ってあったのですね。