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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

やっぱり人間だ。

息を殺して見ていると、そのものは、二人がそこに坐っているとも知らず、スーッと中の間を通り抜けて、奥座敷の縁側の方へ消えて行った。そして、ギイーと開き戸の軋む音。

あんな音のする開き戸がほかにある筈はない。縁側の隅の手洗い場だ。オヤ、すると、あの怪しい人影は、手洗い場へ入る為めに、二階から降りて来たのであろうか。

「先生、あれは何者です」

博士の耳に囁くと、博士も囁き返す。

「分らないかね」

「何だか、分っているような気がします。でも、今の奴は黒い洋服を着ているように見えましたぜ。男のようでしたぜ」

「それでいいのだよ。あれがあいつのもう一つの姿なのだ」

「捉えるのですか」

「イヤ、もう少し様子を見よう。相手をびっくりさせてはいけない。もう袋の鼠も同じことだからね」

そして、二人はまた押黙ってしまったが、すると、再び開き戸の軋む音がして、黒い影が戻って来た。

暗闇とは云え、相手も闇に慣れている筈だ。見つけられてはいけないと、二人は中の間の隅に身を縮めて、息を殺した。

黒い影は、足音も立てず、スーッと中の間へ入って来たが、ふと何かの気配を感じたように、そこに立止ってしまった。