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かいていごじょうほう

改訂御定法

山本 周五郎

「文藝朝日」朝日新聞社、1962(昭和37)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,422 字 · 58 页

青空文庫

この実を塩漬けにすると香りのよい箸休めになる、と云っていたが、妻の生きているうちには一つか二つしかならなかった。さっきそれが実を付けているのをみつけたので、そこへいって数えてみると、蜜柑色をした実が二十八個もなっていた。――梅の木を持たない農家では、青いうちに漬けて梅干の代りにする、とも亡き妻は云った。直衛はその一つを枝から千切ってみた。色は美しいが石のように固く、甘酸っぱいような強い香りを放った。

「漬けるには青いうちだと云ったな」直衛はそっと呟いた、「青いうちに摘むか」

彼がその実を握ったまま居間へ戻るとすぐに、朝倉摂津から迎えの者が来た。会いたいからすぐにという口上である。直衛は裃をつけず、袴だけはいていった。摂津はもう七十五か六になるだろう、直衛は七歳のとき若ぎみの学友として江戸屋敷へ呼ばれ、十歳まで勤めて帰藩したが、江戸にいるあいだずっと、御養育係の朝倉に睨まれどおしであった。当時はただ性が合わないんだと思っていたけれども、あとで考えてみると自分のほうが悪かった、ということに気がついた。――先年、御定法改新の会議にも、朝倉とは正面から対立し、独りで頑強にねばりとおしたが、そのときまた考え直して、江戸勤めのときも自分が悪かったのではなく、朝倉のほうが偏狭だったのだと思った。