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せいじがくにゅうもん

政治学入門

矢部 貞治

「政治学入門」アテネ新書、弘文堂、1951(昭和26)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,607 字 · 96 页

青空文庫

の天国を信じて現世の侵略や搾取に無抵抗でいるというわけにはゆかない。そういうことなら政治の存在価値はない。宗教はまた権力や武力を超越した世界に属する。しかし権力や武力を否定した世界には、政治は存在の余地がない。

たとえば「如何なる意味の戦争も絶対に否定する」とか、「たとえ国亡ぶとも平和を」とかいう議論は、右に説くような宗教の立場なら諒解できるが、しかし政治の立場では認めることはできない。不法な侵略が行われるなら、これと戦うことは国家の当然の権利でありかつ義務である。「いかなる戦争も絶対に否定する」というなら、侵略を防ぐための戦争も否定するということである。それは現実においては侵略を是認しそれに奉仕することにほかならない。国が亡びてもよいというなら、政治など存在の意味はない。国家の安全と独立の保持は、政治の第一任務なのである。「あの世」のことは別とし、現世では侵略に奉仕したり、国が亡びてもよいというごとき「平和」はあり得ぬ。

「人もし汝の右の頬を打たば左の頬をも出せ」という宗教の教えは、絶対の暴力否定を説く崇高な教えであるが、それをそのまま政治の原理として、「他国がもし汝の国の北の半分を侵略したら南の半分も出せ」