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せいじがくにゅうもん
政治学入門
矢部 貞治
「政治学入門」アテネ新書、弘文堂、1951(昭和26)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,607 字 · 96 页
できない。
一般に無政府主義の考え方は、国家というものが人間そのものと無関係に成立したもので、その国家がその権力的な強制によって、人間の自然的な善性を傷つけ、ゆがめ、悪くしているのだという学説の上に立っている。それはまるで国家が天からでも降って来たもののように考えて、国家を作り出したのはほかならぬ人間自身であるということを、従って国家権力を善用するも悪用するも、一に人間そのものにほかならぬということを無視している。無政府主義者は一般に人間の本性が、完全に平和で、善いもので、美しいものだと前提しているが、人間の自然の本性をそのように美化することは正しいとはいえない。パスカルのいうように、人間は野獣ではないが、しかも決して天使ではない。
無政府状態でも、人間は本来一面では社会的な連帯性と協同性を持っているから、必ずしもすぐに「万人の万人に対する闘争」の状態には、ならないかも知れない。しかし個人主義的な無政府主義者が考えるように、国家権力さえなければ平和と幸福の楽土が実現されるなどとは、とても考えられない。国家秩序がなくなれば、強者の暴力的な強制がすぐに取って代るものと思わねばならぬ。