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せいじがくにゅうもん
政治学入門
矢部 貞治
「政治学入門」アテネ新書、弘文堂、1951(昭和26)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,607 字 · 96 页
ない。だから国家を否定し、私有財産制度を廃止し、階級をなくしさえすれば、人間は自然の善性にかえり、あるいはそこに新しい人間性が生れるという共産的無政府主義の主張には、容易に承服できないのである。人間の悪と不幸を悲しみ、国家や社会制度の弊悪を憎むことは正しいけれども、それだからといって人間を自然のままに放置すれば、万事善くなるということにはならない。人間の自然の性情の中には、精神的及び肉体的な能力の不平等も、私有や支配の欲求も含まれている。それらを統制して社会正義の下に調和させることは、無政府主義によって国家を否定することによってではなく、反対にまさに正しい国家秩序を作ることによってである。
共産的無政府主義も必ずしも秩序や組織を否定するのではなく、ただ権力秩序でなしに完全に自由で自発的な結合または組織を考えるのであるが、しかし完全に自由自発的な組織などは現実にはあり得ない。それがいやしくも組織の名に値するものであるなら、必ず多少とも拘束と強制の要素が伴うのである。だとすれば、それを現実の政略や煽動の目的で何と呼ぼうとも、実はそれ自身が、新しい国家的統制組織のほかの何物でもあり得ないのである。