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せいじがくにゅうもん
政治学入門
矢部 貞治
「政治学入門」アテネ新書、弘文堂、1951(昭和26)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,607 字 · 96 页
ところでこのような階級の基盤をなしている共通の生活秩序ないし生産関係の、最も基本的なものが現代では民族なのである。民族の土台そのものは、原始社会の部族の発展したもので、一貫して存在していたわけであるが、古代の都市国家でも、ローマのような世界国家でも、中世の封建的な等族国家でも、民族意識が現実の力を持つ契機はなかったので、中世の神聖ローマ帝国や封建的身分社会が崩壊したあとで、初めて近代人の共同体の土台としての民族が自覚されるに至ったのである。
民族は永い間、種族または人種と混同されていた。共通の血を持つという意識が、特に原始社会で極めて根強い本能的な力を有したことは否定できないが、しかし原始時代からの種族闘争で、種族の移動や、婦女の掠奪や、奴隷の売買や、氏族外結婚制などにより、血の混交は広汎に行われていたのであって、そもそも人種を区別する科学的標準というものは、今でもまだ確立されていないのである。血の共通性ということは、多くは客観的な事実としてではなく、実はそう思っているだけの主観的な信念にほかならない。そしてそのような信念または意識は、現代では種族よりも民族の意識の中に包括されている。