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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

それなら茶わんでも焼いておれと、望みにまかせて、やらせておるが」

「ははあ、ではあれは、それを焼く窯でございましたか。しかし茶わんなど作って、どうなさいますか」

「飯でも喰おう」

「ははは」

彦右衛門の高笑いに、彼方に屈んでいた福太郎は、びっくりしたように窯の前から伸びあがって振り向いた。

が、いつも物に脅えているようなその眼は、遠く、藤吉郎のすがたを見ても、あわててまた窯の前に、卑屈な犬のように背を屈めてしまう。

「あの卑屈を、どうしたら除いてやれようか」

藤吉郎は、彼のひとみを見るたび、不憫をおぼえた。

何か、常に恐怖していた。優しく仕向ければ猶おどおど尻ごみするといった風である。なぜかと、福太郎の心を察してみると、自分がまだ茶わん屋の若主人と立てられていた時代、家にいた日吉という小ましゃくれた丁稚を憎んで、朝夕にいじめつけたことがある。それを今となって、急につよく憶い出し、自責のあまり、人知れず恐怖したり苦悶したりしているらしいのであった。

日が経つと、彼の作った茶わんが焼けた。

焼き上がるたび、福太郎は、幾つかの品を、黙って、藤吉郎の書院の縁先へならべておいた。