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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
04 第四分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页
世の情勢が伝わることもどうしても遅い。兵馬は強くても、大将はお偉くても、これは何割の損かわからない」
彼は、自分の任務の重いことを一しお感じた。
岩燕のように、麓まで駈け降りた。
鰍沢の町で、また馬を求め、それからは一鞭で、甲府へはいった。
盆地の甲府はむし暑い。
信玄の居城、躑躅ヶ崎の館は、常になくきびしく固められていた。
よほどな大問題か、軍議の折でもなければ、平常めったに通らない顔が、ぞくぞくと城門へはいったので、
「何事かあるな? ――」を、門の士卒でも予感していた。
戦国のいま、事があるといえば戦ときまっているようなものである。それかあらぬか、今朝から城内へ通った人々では、一族の孫六入道逍遥軒をはじめ、穴山梅雪、仁科信盛、山県三郎兵衛昌景、内藤修理昌豊、小幡信定、小山田備中守などの譜代などがあった。
「御軍議だろうか」
「いうまでもない」
「出軍とすれば、どこへであろう」
「さあ、どこへだか」
「川中島か、善光寺平の西か」
「上杉家とは、和議が成っておるはずだが」
「わかるものか。和睦と開戦は、天気のようなもので、急に風雨になった、こんな約束ではないといっても、その時はもう人間のせいにはならない。