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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

この法衣の端ですむと申すなら置いて行こう」

と、あっさり身にまとっている法衣の片袖を破って、三平の足下へ抛り出した。

三平は、拾い取って、

「これでいい。これを証に持ち帰って渡辺天蔵は討ったりと披露しておかばすもう。名だたる敵の侍なら知らず、多寡が乱波の者ひとり、首を御実見なさろうとは仰っしゃるまい」

「そう話がわかれば、双方の祝着、では甘糟三平どの、お別れとしよう。……いずれまたと申したいが、会えば最後、もう生涯二度と会わないようにお互いに祈ろう」

云い捨てると、渡辺天蔵のほうも、急に相手が恐くなって来たとみえ、生命びろいでもしたように、足を迅めて立ち去った。

その姿が峠の降り坂へかかった頃だった。三平は、その前に、草むらへ隠しておいた鉄砲と火縄を持ち直して、天蔵のあとを追いかけていた。

やがて、鉄砲の音がした。――つづいて鉄砲を投げすてて、倒れた敵へ止刀を刺しにゆく彼のすがたが跳ぶ鹿のように彼方の坂に見えた。

杣道の草むらに、渡辺天蔵は仰向けに倒れていた。――が、三平が踏み跨がって、その胸いたへ、刃の先を向けたせつな、天蔵はふいに起って、敵の諸足へ両手で抱きついて行った。